黒井克行『ふるさと創生 北海道上士幌町のキセキ』(木楽舎、2019年)は上士幌町の地域創生の取り組みをまとめた書籍である。上士幌町は人口5000人ほどの小さい町であったが、いち早く「ふるさと納税」制度を活用し、2016年度は約21億円もの寄付金を得た。

本書は「ふるさと納税」の成果で始まるが、単に制度をうまく利用したことが上士幌町の成功要因ではない。役所や公務員の常識にどっぷり浸からず、民間感覚、ビジネス感覚を持っていることが成功要因である。上士幌町役場は問い合わせの多い案件に対しては担当部署だけでなく、誰もが最低限の質問や問い合わせに答えられるように情報を共有する。「役所にありがちな縦割りの、電話のたらい回しはない」(19頁)。

働いている市民は昼休みの間に役所に電話で問い合わせすることが多い。このために役所では昼休みの時間帯は交代で誰かが残って外部からの問い合わせに備える(97頁)。消費者にルールを押し付けるのではなく、消費者の需要に合わせる。

上士幌町の取り組みは、竹中貢町長の改革姿勢に負うところが大きい。竹中町長の発想やスピード感は民間感覚に近い。そのために「町長は民間出身ですか」と聞かれることが多いという(74頁)。実際は地方公務員出身である。民間のコールセンターでも上記の電話対応では自分達のルールを押し付け、消費者に不便を強いていることもある。消費者本位の考えを持っていることは立派である。

上士幌町の取り組みはITから始まっている。2002年にIT担当部署の創設、2008年にSNSを開始、ホームページのスマホや携帯電話対応も行った(79頁)。役所にはネットよりもリアルなコミュニケーションという古い体質がある中で先進的である。

「ふるさと納税」には先進的に取り組む上士幌町であったが、国の制度に飛びつくばかりではない。平成の市町村合併には乗らなかった。市町村合併を城取り合戦になぞらえたためである。どちらの市町村に本庁舎が行くかが問題である。「支所になった方は最初のうちは職員の規模もそれなりに配されるだろうが、時間が経つにつれて減っていき、それに合わせるかのようにその地域も疲弊していく」(47頁)

安直な規模の経済の幻想にとらわれない。「1+1=2」である。「1+1」が3や4になるとは考えない。「1+1=2」となっても公平な配分がなされるとは限らず、0.5と1.5になることもある。それならば合併によって損をする。昭和の右肩上がりの経済成長ではなく、トレードオフやゼロサムゲームを認識する堅実な発想である。

市町村合併には飛びつかず、「ふるさと納税」に飛びついたところには、上からの計画の押し付けではなく、マーケットインの発想がある。ふるさと納税は住民が寄付先の自治体を選択する。住民に選ばれる必要がある。公務員にも民間感覚が必要になる。

戦後も地域活性化を名目に地方への配分がなされていた。むしろ都市住民から見れば税金が地方に使われ過ぎているとの批判もあった。誰も通らない道路の建設などが無駄な公共事業として批判されていた。そのような地方への配分に比べると「ふるさと納税」は画期的である。個々の住民が自分の応援したい自治体に直接寄付する。納税先に市場原理を導入する。政治家や官僚が全体最適で配分先を決めるよりも、個々人が個々の価値観で決めた方が合理的な結果になるというハイエクの理念を活かした制度である。