川島博之『データで読み解く中国の未来 中国脅威論は本当か』(東洋経済新報社、2015年)は中国の未来をデータに基づいて分析・予想した書籍である。今や中国は世界第二位のGDPであり、世界の工場であり、アメリカと並ぶ強国である。

中国の問題点として格差が指摘される。これを本書は中国の伝統に基づくものという。宋代から科挙制が徹底され、官僚は全国を移動し均一的に統治を行い、民衆も地域社会に束縛されずに自由に行動し、自由な競争社会が作られたとする。1000年もの競争社会の伝統があるため、競争と格差を容認する風土がある。これを読むと社会主義革命とは何だったのだろうかと感じてしまう。

本書は農民が豊かにならないと持続的な経済成長は望めず、先進国になれないと主張する。そのための政策として最低賃金を引き上げる、富裕層や中産階級への課税を強化して低所得者向け福祉に充てることを主張する。これらは先進国でも貧困解消を求める側が主張しているものである。興味深いものは都市戸籍と農民戸籍に分ける戸籍制度を廃止して移動の自由を保障することを主張していることである。やはり自由で公正な市場が必要である。

大国になった中国がアメリカに国際秩序の覇権争いを挑むのではないかと指摘する声がある。それを本書は否定する。中国脅威論は中国の軍事費増大を煽るが、実はGDPに占める軍事費の割合はここ10年ほど横ばいが続いている。

また、中国人は商人気質であり、国家のために死ぬのは馬鹿らしいと考えているとする。一回二回の戦いで勝ってもいずれは負け、命はたった一回の負けで失われる。これは過去に米英の覇権に挑んだドイツ人や日本人、ロシア人と異なるところである。ドイツや日本、ロシアと異なり、権威主義や集団主義の要素が小さい。

勿論、中国人が体質的には覇権獲得的でないとしても、状況によってそのようになることはある。現実に中華人民共和国はソ連やインド、ベトナムと歴代王朝以上に戦争を繰り返していた。中国との経済的依存関係を高め、社会主義的要素をなくしていくことが中国脅威論を現実化させないための周辺国の平和共存戦略になるだろう。