呉兢『貞観政要』は唐の太宗・李世民と名臣達の政治問答集。太宗は唐の第2代皇帝。その治世は「貞観の治」と呼ばれ、名君として名高い。太宗は質素倹約を奨励し、不相応な出費を許さなかった。これは堅実な消費者感覚と合致する。品質と価格が比例すると高価な品物を有難がる浅ましい拝金主義を否定する。

本書は古来より帝王学の教科書として扱われてきた。現代でもビジネスパーソンに読まれている。創業以上に守成の大変さを説いている。やる気を見せて頑張ることを美徳とする昭和の精神論根性論を否定する意味で経営者が本書を好むことは良い傾向である。

太宗の最大の美徳は他者の直言を受け入れた資質にある。中国古典は女性の存在感が薄いが、本書には皇后の意見によって行動を改めた話もある。唐代には中国至上唯一の女帝である武則天も登場する。耳に痛い他者の意見を受け入れて行動を改めることは、一般論として良いことである。現代人が、ここから行動指針を学ぶことも良い。

一方で歴史学的には別の視点がある。唐代は門閥貴族が蔭位の制を通じて一定の高位を維持していた。三省六部の門下省は法案を審査し、差し戻す権限を有していた。これは貴族の利害を代表して皇帝権力を監視する意味合いがあった。フランス絶対王政の高等法院のような存在である。後の宋代になると皇帝独裁となる。独裁には良いイメージがないが、歴史学的には貴族の既得権益を守る抵抗を排除する積極的意味がある。