川端基夫『消費大陸アジア 巨大市場を読みとく』(筑摩書房、2017年)はアジアの市場や消費を分析した書籍である。アジア各地に進出した日本企業の成功・失敗事例から、アジア市場固有の論理を明らかにする。

本書が強調していることは、同じ商品や店舗も、市場によって異なる意味や価値を持っていることである。世界どこでも同じ味、同じサービスをアピールするマクドナルドですら国によってイメージは異なる。中国では子供の誕生日パーティーを開く店であり、インドでは週末に家族で出かける少し高級な店になる。顧客が求めることは製品そのものではなく、課題の解決である。良い商品だから売れるという高度経済成長期の日本の「成功体験」は今や足枷である。

興味深い点は屋台に対するアジアの価値観である。屋台を店舗に比べて不衛生と感じる日本人は少なくないだろう。しかし、アジア人によっては逆に屋台の方が食の安心につながる。屋台は消費者が食材や調理過程を間近で見ることができるためである。

消費者に対して一方的に企業を信用してという論理は成り立たない。消費者への判断材料を適切に示すことが企業の信頼につながる。アジア人の方が合理的で賢い消費者と言える。今後は日本市場もアジア化していくだろう。

本書は中国人観光客が何故、日本ドラッグストアで爆買いする背景を説明する。中国では個人病院の開設が認められておらず、都市部に遍在する総合病院に選択肢が限られている。このため、中国人にとって通院はハードルが高く、できる限り家庭薬で治そうとする事情があるという。

これは公共セクターが計画的に供給する社会主義の失敗を物語る。計画経済では官僚が計画を立案するが、官僚は各地の需要に対応することができず、供給不足を引き起こす。現実に社会主義体制崩壊前のソ連や東欧の社会主義国では食料品を買うための大行列が日常になった。中国は市場経済を導入して消費財不足を回避したが、医療のようなより公的なサービスでは計画経済の弊害を払拭できていない。

本書は「中間層の拡大」や「中間層の所得の向上」という曖昧な言葉に踊らされる危険を戒める。ここには中間層の拡大や底上げこそが国の経済発展の原動力という昭和的なイデオロギーがある。何をやっても売れた高度経済成長期の「成功体験」でアジア市場に進出しても手痛く失敗するだろう。現地の消費者感覚を知ることが海外進出の成功につながる。