廉薇、辺慧、蘇向輝、曹鵬程著、永井麻生子訳『アントフィナンシャル 1匹のアリがつくる新金融エコシステム』(みすず書房、2019年)はアリババ・グループの金融関連会社「アントフィナンシャル」を取り上げた書籍である。アントフィナンシャルはキャッシュレス化など中国の金融を大きく変えている。

アントフィナンシャルは様々なサービスを展開している。決済サービス「アリペイ」(支付宝)は日本でも有名である。中国のサービスを日本企業が後追いしている。余額宝は1元から資産運用ができるMMF(Money Market Fund)。芝麻信用は個人や企業の信用度をスコアリングする。網商銀行はマイクロクレジットのインターネット銀行。

これらのサービスは既存の金融機関が対象にしていなかった人々が金融サービスを利用できるようにした。たとえば芝麻信用で高スコアの者は敷金なしで賃貸住宅を借りることを可能にする。

日本では敷金や礼金を出せない貧困層をターゲットにしたゼロゼロ物件が貧困ビジネスとして社会問題になった。敷金礼金ゼロで物件を借りられるが、違約金や退室立会費など様々な名目で費用を徴収し、搾取する。貧困層の弱みに付け込んで搾取する日本の貧困ビジネスとITを活用して業界の常識を壊すサービスを生み出す中国のIT企業。その差は大きい。

SDGs(持続可能な開発目標)のターゲット1.4は「2030年までに、貧困層及び脆弱層をはじめ、全ての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、経済的資源についても平等な権利を持つことができるように確保する」と定める(総務省仮訳)。アントフィナンシャルの活動はSDGsの実践である。

20世紀は社会課題の解決と言えば、規制や福祉など公的権力の拡大によって実現するイメージが強かった。しかし、ハイエクが看破したように公務員の不正や無能、非効率が起こり、政府の失敗を引き起こすことも多々あった。民間企業が消費者感覚でサービスをローンチさせて世の中を変えていくことは素晴らしい。民間感覚や消費者感覚の点で日本は中国よりも遅れているのではないか。