藤屋伸二『ドラッカーから学ぶ多角化戦略 御社の閉塞感を打ち破る多角化手引書』(クロスメディア・パブリッシング、2015年)は多角化戦略を解説したビジネス書である。本書は選択と集中の多角化を勧める。それは自社の強みを展開できる技術か分野への進出である。やみくもな多角化を勧めるものではない。

本書は本業にとらわれるなと主張する。事業の本質は顧客のニーズに応えていくことである。創業時からの事業に固執するならば、顧客ニーズの変化に対応できなくなる。それが本業にとらわれるなという意味である。

本書の主張は支持できるが、立ち位置をしっかり理解する必要がある。日本企業の多角化と言えばバブル経済で不動産購入など財テクに走った企業を連想する。また、最近では企業買収で見かけ上は急成長した企業を連想する。典型は2019年3月期決算で純損益が193億円の赤字となったライザップである。どちらも失敗と位置付けられる。これらに比べれば、本業重視の経営姿勢は堅実であり、肯定的に評価できる。

財テクや企業買収の多角化失敗を踏まえ、選択と集中は多角化とは逆のベクトルで使われてきた。たとえば以下のように使われる。「RIZAPを企業再生させるには、子会社群の「選択と集中」しかない」(山田修「ライザップ、どん底状態に…プロ経営者・松本晃氏すら「手に負えない」と半年で逃げ出す内情」Business Journal 2019年5月30日)。

この結果、選択と集中は多角化を否定し、本業に回帰することとの理解もされるようになった。それがドラッカーの意図した選択と集中ではないとの主張は正しい。それは良いが、財テクや企業買収による多角化失敗の反省が不十分な状態では開き直りの道具として使われる危険がある。そのような意味で多角化が正当化されることは本書の意図ではないだろう。