岡嶋裕史『ブロックチェーン 相互不信が実現する新しいセキュリティ』(講談社、2019年)は注目の技術ブロックチェーンを解説した書籍である。ブロックチェーンは仮想通貨の基盤技術として大きな話題になったが、より広い分野に適用可能な技術である。
例えば腕時計ブランドがブロックチェーンでデジタル鑑定書を作成する。「紙の鑑定書は偽造の恐れがあるが、ブロックチェーン上に記録された情報は変更や複製が不可能」(「高級腕時計ブランドがブロックチェーン技術で“デジタル鑑定書”」WWD Japan 2019/5/25)
ブロックチェーンの画期的なところは、管理者が存在しない分権型のシステムであることである。参加者全てが同じ方向を向いていなくても、敵同士であっても処理の透明性を確保し、データ改竄を行いにくいDBを実現した。官僚の作った計画通りに動く仕組みの対極になる。
ブロックチェーンには自由を好むインターネットユーザーが注目するだけの理由がある。中心となる管理者がいないということは、村社会を牛耳るドンやボスの支配がなくなることである。社会全体の利益の名目に上下関係や情報格差を強いる根拠がなくなる。
勿論、ブロックチェーンは魔法の杖ではない。本書は、ブロックチェーンは管理者が管理する通常の仕組みと比べて処理効率が悪いとする。そのためにブロックチェーンが社会に浸透する中で、「権力からの独立」という当初の思想とは違う方向に塗り替わっていくだろうと指摘する。
しかし、自律的に調整される市場主義的なシステムは魅力的である。計画経済やケインズ経済は公務員の無能や不正で政府の失敗に陥りがちである。同様に管理者の管理するシステムは一見効率的に見えるが、管理者の無能や不正をマイナス面として織り込まなければならない。
消費者の権利意識が高まった現代は管理者の無能や不正を過去よりも許容しにくくなっている。全体のシステムを回していくために個々人は我慢しろという欺瞞的な論理は通用しにくくなっている。ブロックチェーンの理念は時代の求める核心的なものと考える。