池井戸潤『下町ロケット』は東京都大田区の中手企業・佃製作所を舞台とした企業小説。テレビドラマ化され、大ヒットした。しかし、熱い思いで頑張れば何とかなる、やる気を見せることが大事というような昭和の精神論根性論を21世紀に拡大再生産しているような懸念がある。

主人公は実家の佃製作所を継いだ佃航平。佃製作所は取引停止や特許権侵害訴訟など大企業に翻弄され、倒産の危機に瀕していた。航空宇宙産業を目指す大企業の帝国重工は政府から大型ロケットの製造開発を委託されていた。ところが、大型ロケットのエンジンのバルブシステムは佃製作所の特許に抵触していた。

帝国重工は佃製作所に特許権の売却を持ちかける。資金繰りが苦しい佃製作所にとって渡りに船の話であるが、航平は企業の根幹に関わると断ってしまう。代わりにエンジンそのものの供給を提案する。一方、佃製作所内部には特許権を譲渡してその分を還元してほしいという声が上がっていた。

困難に直面しながらも、皆で問題を解決する熱さに心を動かされた人は多いだろう。しかし、ピンチになると社員総出で解決するような展開は、ブラック企業的である。恐らく佃製作所は良い会社で、ワタミは駄目な会社という点が、少なからぬ人の価値観だろうが、昭和の会社主義の延長に平成のブラック企業が存在する。佃製作所的なものを批判できるようにならなければ、ブラック企業を批判しきれない。