田中慎一、保田隆明『コーポレートファイナンス 戦略と実践』(ダイヤモンド社、2019年)はコーポレート・ファイナンスの実践的な解説書である。会計からM&A、株主還元政策、IRなどファイナンスの話題を幅広く取り上げる。現実と乖離した勉強になりがちな会計書とは異なる実践的な書籍である。
本書にはコーポレートファイナンスが企業の成長にとって重要という問題意識がある。「はじめに」で以下のように述べる。「いいものを作れば売れる時代は終わりました。絶妙なタイミングで最適な資金調達を行い、大胆かつ緻密に練られた投資戦略を実行する、そうして初めて企業は移り気な顧客に長く愛される存在となります」
これは昭和の日本的経営から転換すべき点である。日本的経営の擁護者は、財務や株主重視の経営を目先の利益を追求する強欲資本主義と批判しがちである。しかし、財務や株主を重視した経営の方が市場という第三者の視線を重視している。「いいものを作れば売れる」という昭和的なモノづくりの発想の方が傲慢な押し付けである。
面白かった内容は「会計をファイナンスに生かすためのキャラクター分析」である。企業の性格を財務指標から分析する。最初に見る指標は総資産利益率(ROA; Return On Assets)である。これは企業が投下した全ての資産を使って、どれだけのリターン(利益)を得たかを示す。「営業利益/総資産」で求められる。
2016年度の外食チェーン3社のROAは吉野家1.6%、日高屋17.5%、ペッパーフードサービス12.0%。吉野家は苦戦しており、日高屋やペッパーフードサービスは優良である。その要因として日高屋は営業利益率、ペッパーフードサービスは総資産回転率が高い。
日高屋の営業利益率の高さは原価率の低さ(粗利率の高さ)に由来する。「ちょい飲み」という、「飲み」のメニューに力を入れている。アルコール類はフード類に比べると利幅が厚く、粗利率を押し上げている。
これに対してペッパーフードサービスの食材費は55.3%と外食業界の標準30%よりも高い。肉の量と質を重視し、それ以外の要素を削ぎ落し、代わりに回転率を上げることで固定費率を下げて利益を生み出している。これは肉を食べたい消費者にとってもコスパが高い。企業は様々な戦略で利益を出しており、単純に品質と価格が比例するとはならない。