ブラッド・ストーン著、井口耕二訳、滑川海彦解説『ジェフ・ベゾス 果てなき野望 アマゾンを創った無敵の奇才経営者』(日経BP社、2014年)はAmazon創業者を取り上げた書籍である。Amazonの立ち上げから描いている。

インターネットに接したベゾスは当初、あらゆるものを販売する「Everything Store」の起業を目指した。本書の原題は『The Everything Store: Jeff Bezos and the Age of Amazon』である。しかし、最初からEverything Storeは困難と考え、書籍の取り扱いに絞った。これは正解であった。店舗の購入と異なり、通販は期待通りの商品が届くか心配である。これに対して書籍は差がない。また、書籍は刊行点数が多く、小売店でも取り寄せになりがちである。インターネット通販向きの商品である。

Amazonは損をしても顧客を第一に考える。その例として『ハリー・ポッター』の4作目の販売がある。Amazonは40%の値引き価格で販売し、通常配送料金でお急ぎ配送を提供した。損失が出ても、お得意様になってもらうための方策とする。しかし、これは再販制度のある日本ではできないことである。このような規制も日本が業界秩序を破壊し、消費者に新たなサービスを提供する革新的な企業が生まれにくい要素である。

出版業界によるAmazonの評価は複雑である。当初は書籍販売の救世主であった。しかし、Amazonが出版社にKindleへの電子書籍提供圧力や卸売価格の引き下げ圧力をかけるようになると批判が高まる。実際、本書で描かれたAmazonの圧力はハイエナのようである。Amazonは抵抗する出版社を推奨アルゴリズムから外す。そうなると出版社の売り上げは4割近く低下してしまう。

一方でAmazonは出版社から引き出した譲歩を価格の引き下げや電子書籍という利便性の提供で消費者に還元している。ここではAmazonは業界の既得権を打破する存在である。巨大独占プラットフォーマーを悪の権化と見ることは、業界の既得権に乗せられてしまう。元々、出版業界がAmazonを救世主と評した背景は、Barnes & Nobleのような大手書店チェーンが販売量を盾に卸売価格の引き下げを出版社に求めていた事情があった。評価も批判も出版業界の御都合主義である。

Amazonのビジネスと言えばAWS (Amazon Web Service)が注目される。ベゾスはAWSについて、スマートフォン市場でのスティーブ・ジョブズの失敗を繰り返さないと述べた。AppleはiPhoneを高い利益が得られる価格で販売した。それがGoogleなどの競合をスマートフォン市場に引き寄せた。逆にAWSは低料金によってスタートアップ企業から圧倒的に利用されるようになった。

ベゾスは宇宙事業も手掛けている。テスラのイーロン・マスクCEOやホリエモン、ZOZOTOWNの前澤友作社長ら創業者は何故、宇宙に惹かれるのだろうか。むしろ宇宙に興味を持つことが地に足着いた事業から遊離し、転落の始まりに思えてならない。