伊藤元重『百貨店の進化』(日本経済新聞出版社、2019年)は売り上げが減少し、シェアが縮小している百貨店の方向性を指摘する。今や消費者は豊富な情報を持ち、目的志向が強くなっている。昭和の販売方法や営業方法では消費者は動かなくなっている。

百貨店の地位低下の理由は明白である。第一に百貨店だけの時代ではなくなった。コンビニエンスストアやドラッグストア、紳士服専門店、SPA、大型モールなど消費者の買い物の選択肢が広がった。特に大型専門店の躍進で、高級品は百貨店で買うことが唯一の選択肢ではなくなった。

第二に大量に販売するマスマーケティングの行き詰まりである。消費者の嗜好が多様化し、流行品を売りまくる時代ではなくなった。

どちらも昭和の感覚のままではビジネスが続かず、百貨店ならではの価値を打ち出す必要がある。本書は効率性を強調し過ぎた売り場に魅力はなく、買い物を楽しむリアルな空間としての店舗を指摘する。

しかし、これでは大型モールと差別化できないと考える。買い物の楽しみというエンターテイメント性では東京ディズニーリゾートのイクスピアリには敵わない。百貨店という日本語からは何でも揃う効率的な店舗の方向性もあり得るのではないか。

もう一つ本書が指摘する方向性はB2CからC2Bへの転換である。百貨店には元々、外商部門があり、顧客一人一人を区別し、それぞれの顧客に合った対応をすることは得意である。情報技術を活用することで、人的コストをかけずに、富裕層以外の消費者に「個客対応」を広げることができる。

とは言え、悪い意味での「個客対応」もある。東急百貨店では認知症の高齢女性(78)に約1100万円分の婦人服を売りつけていた。認知症をカモにした過量販売・次々販売・多額販売である(林田力『東急不動産だまし売り裁判6東急百貨店だまし売り』Amazon Kindle)。お得意様が都合よく買ってくれる人を意味するならば、賢い消費者の百貨店離れは必然になる。カスタマーサクセスの発想が必要である。

その意味でC2Bというキーワードは魅力的である。店から顧客への流れから、顧客から店への流れである。「個客対応」を超え、顧客Customerから店Businessに対するアクティブな働きかけを可能にする。もっとも、個客対応以上のC2Bの具体的イメージは明確ではない。ここが課題になるだろう。