高橋研『実践!インサイトセールス AIに駆逐されない営業力』(プレジデント社、2018年)は従来型の営業から顧客のビジョンを実現するインサイトセールスへの転換を主張するビジネス書である。訪問型営業はAIに取って代わられる職業とされる。この時代に存在意義のある営業がインサイトセールスである。

インサイトセールスは顧客の経営理念や事業ビジョンを徹底的に傾聴し、その内容をしっかりと理解する。その上で、そのビジョンを実現させるのに必要な課題解決策を提案する。課題解決と言えばソリューション営業を想起するが、本書はソリューション営業を一時代前のものとして明確に区別する。

ソリューション営業は事業者が一方的に設定した課題解決提案である。年金代わりの安定収入との名目でマンション投資の迷惑勧誘電話をかけることもソリューション営業と強弁することができる。そのようなものはAIでも実現可能である上、顧客への価値もない。相手の意思の尊重を忘れ、売り上げだけを求めることは、人の気持ちを踏みにじる行為である。

これに対してインサイトセールスは顧客の価値観に沿った営業である。これができていなければソリューション営業と言ったところで、良い商品だから売れて当然という高度経済成長期のプロダクトアウト的な発想と大差なくなる。このインサイトセールスはCustomer Successの発想と重なる(ニック・メータ、ダン・スタインマン、リンカーン・マーフィー著、バーチャレクス・コンサルティング株式会社訳『カスタマーサクセス サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』英治出版、2018年)。

本書は具体的な営業方針も述べている。アポイントメントに際しては訪問の目的を正しく伝える必要がある。「ご挨拶に伺わせてください」といった曖昧なものは駄目である。この「ちょっとご挨拶だけ」はアメリカ人のビジネスパーソンから無駄な時間と嫌われる(小林真美『出世する人の英語 アメリカ人の論理と思考習慣』幻冬舎、2018年)。

このように私は本書にグローバルな感覚との重なりを感じた。一方で本書はインサイトセールスが刺さりやすい人々を創業社長や一族経営の後継者、地元密着を掲げる企業のトップとする。保身だけの公務員的な組織人に刺さりにくいことは理解できるが、随分ドメスティックな印象を受ける。一族経営や地元密着企業はビジョンが分かりやすいため、インサイトセールスの難易度が低いという事情はあるだろう。インサイトセールス自体は、もっと普遍性があると考える。