林田敏子『イギリス近代警察の誕生 ヴィクトリア朝ボビーの社会史』(昭和堂、2002年)はイギリス近代警察を社会史的な観点からアプローチした書籍。警察が暴力装置であることは厳然たる事実である。その性格は近代国家の方が強くなる面がある。前近代では事後処理中心であったが、犯罪予防を名目として国家の強制力を背景とする中央集権的な官僚組織になるためである。

これはマグナ・カルタ以来の伝統を持つイギリスでは憲政原理に反すると批判されたが、それが社会的に受容される過程を本書は明らかにする。1850年代には警察の暴力や抑圧的な取り締まりを批判する投書が激減したが、それは本書は既成事実として黙認されるようになったと位置付ける。つまり現実の警察の暴力や抑圧的な取り締まりが減少した訳ではない。批判として記録されなければなかったことにされる。責任逃れの公務員にとって都合の良い展開になる。

本書は事実上の警察機関誌である『Police Guardian』から警察官の声を拾い、警察組織への帰属意識や職業的連帯感が形成されたと説明する。但し、警察機関誌に掲載される内容は警察機関誌が認めた内容に限定される。警察組織に不都合な事実も含めて事実をありのままに伝えるものではない。警察不祥事の話題は掲載されないだろう。不祥事警察官の本音も掲載されないだろう。

よって本書のヴィクトリア朝ボビーは建前の警察官像になるという限界は認識する必要がある。本書は実際に起きたことよりも、社会的な意識を重視するアプローチである。それ故に建前の警察官像を明らかにすることは、まさに本書の課題である。