オーウェン・ジョーンズ著、依田卓巳訳『エスタブリッシュメント 彼らはこうして富と権力を独占する』(海と月社、2018年)は英国のエスタブリッシュメント支配の実体を明らかにし、処方箋を述べた書籍である。本書は英国を対象とするが、世界全体に通用する。

本書のエスタブリッシュメントは自分達を地位を守らなければならない有力者の集団である。具体的には政治家やメディアや金融機関などの企業経営者、警察官僚などである。彼らの目的はエスタブリッシュメントそのものに奉仕することである。この目的のために活動しており、思想は手段に過ぎない。

確かにエスタブリッシュメントは新自由主義思想を広める傾向にあるが、彼らは新自由主義の真の信奉者ではない。市民には自己責任を押し付ける一方で、大企業には補助金や税制上の優遇措置を与え、銀行は巨額の補助金で救済する。エスタブリッシュメントに奉仕するためならば新自由主義と真逆のことをする。

英国は新自由主義ではなく、富裕層と企業のための国家社会主義の国である。ここからすると無制限な財政出動を正当化する現代貨幣理論Modern Monetary Theory; MMTなどはエスタブリッシュメントに都合の良い理論になるだろう。

本書の表紙には「国に「たかって」いるのは本当は、誰か?」とある。新自由主義よりも、国家利権のぶら下がりがエスタブリッシュメントの権力の源泉ではないか。それ故にエスタブリッシュメントを批判するならば、新自由主義批判よりも利権批判の方が効果的ではないか。

本書は対策として、民主的な権利と権力を平和的な方法で取り戻す民主革命を提言する。しかし、その内容の多くは累進課税の範囲の拡大など社会民主主義や福祉国家、ケインズ経済学の大きな国家的な制度改革である。それらには新味がない。

ユニークな主張は公共サービスの公有化である。官僚の手を通した再国有化ではなく、利用者と労働者による公有化である。これは20世紀末からの改革を否定し、20世紀後半に戻す反動ではないという点で新味がある。官僚の手を通した国有化は改善にならない。民営化しても官僚的体質が残っていれば、かんぽ生命のノルマのような役人的点数稼ぎが起きる。

一方で利用者と労働者による公有化が公共サービスを取り戻すことになるかは難しい問題がある。利用者と労働者は利害が対立するためである。利用者の立場からは国鉄民営化でサービス精神の向上を感じる。

また、本書は政府がグリーン産業のような産業政策に積極的に介入することも指摘する。これも望ましいことであるが、政府が適切な有望分野に投資できるかという疑問がある。シェアリングエコノミーへの対応を見ると、逆に成長の芽を摘むことにならないかという懸念である。

エスタブリッシュメントの唱える新自由主義はエスタブリッシュメントに奉仕するための御都合主義であると批判できる。しかし、新自由主義が20世紀末に広がった背景には土建国家など20世紀後半の官僚主導の大きな政府の機能不全がある。新自由主義は社会的需要に応えるものであった。民主革命が改革前の20世紀後半に戻すだけならば魅力はない。どれだけ新しい内容を打ち出せるかが問題である。