田岡りき『吾輩の部屋である』(小学館)は哲学系部屋コメディ漫画。独り暮らしの大学院生の鍵山哲郎の自宅生活を描く漫画。鍵山は生活感のあるアパートに住んでいる。投資用ワンルームマンションのような無駄な高級感はなく、貧困ビジネスのゼロゼロ物件ほど堕ちていない。値段と品質が比例するという愚かな発想に支配されていない。健全な消費者感覚がある。

物語は終始、鍵山の部屋で展開される。鍵山の独白に家具などが突っ込みを入れる。家具などが話しているような描写であるが、自己を客観視した主人公の心の声とも言える。そのような自己を客観視できる立場の人間として大学院生は向いているだろう。大学の学問は高校までとは異なり、唯一の正解のないものだからである。

鍵山以外の人物は出てこない。メールや電話でやり取りするだけである。飲み会の誘いに面倒臭くて出ないなど、あるあると言える話がある。漫画の舞台が部屋になっているだけで、鍵山は引きこもりではない。外出もするが、そこは描かれない。それでも家が寝るために変えるだけではない。生活の拠点になっている。

鍵山は指導教授とも距離感がある。悪い意味での日本のアカデミズムはコネの世界であった。自己の研究室の教授に気に入られればいい。別に博士号とるのに「こうしなければいけない」というきまりがあるわけでもない。「論文出せば博士号あげるよ、でも気に入らない奴には出してもやらんよ」という世界である。

名門大学になると学閥等、色々あるから「どこどこの研究室の○○教授か、あの人なら私は知り合いだからいいところの仕事先に推薦してやろう」という感じである。そのようにしてパイプを作らないと伝統のある大学では教授にはなれない。そのようなしがらみが重視されない大学の方が健全とも言える。