Hans Rosling, Ola Rosling, Anna Rosling Ronnlund著、上杉周作、関美和訳『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP社、2019年)は世界を正しく捉える見方を提示する書籍である。現代人は10の思い込み的な本能によって世界を正しく見ることができていないと指摘する。

最初の分断本能は、世界が先進国と途上国、金持ちと貧乏人など分断されているとする見方である。しかし、統計では乳児死亡率や就学率は途上国も含めて向上している。人類の「ほとんどはグローバル市場に取り込まれ、徐々に満足いく暮らしができるようになっている」(43頁)。日本では進歩派も保守派もグローバル化を格差拡大と脊髄反射的に拒否する傾向がある。しかし、透明性のある市場ルールが入ることで、業界の既得権が廃れ、消費者の選択肢が増え、生活しやすくなっている。

次のネガティブ本能は、世界はどんどん悪くなっているという思い込みである。しかし、「多くの人は、上の世代が経験した悲惨な出来事から目を背けがちだし、それを下の世代に伝えようともしない」(84頁)。これは経済大国の「成功体験」を持つ日本で深刻だろう。実際は昭和の日本は目の前の問題解決のために我慢や負担を強いられ、頑張ることを強要する集団主義や精神論根性論が横行していた。昭和に比べれば個人が格段に暮らしやすくなっている。

本書は世界が良くなっているという肯定的な姿勢である。全体的に見て、そうであるとしても、個々には深刻な不合理や不正があるだろう。私にはマンションだまし売り被害という個別的な経験がある(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』)。全体的に良くなっているという話で有耶無耶にされたらたまらない。

この点も本書は考慮している。本書は「悪い」と「良くなっている」は両立すると指摘する(89頁)。これは納得である。深刻なマンションだまし売り被害があること、一方でマンションだまし売り被害を消費者契約法で対抗できるようになったことは両立する。