池田理代子『栄光のナポレオン エロイカ』はナポレオン・ボナパルトを描いた歴史漫画。物語はテルミドール反動後から始まる。為政者は利権の維持追求が第一であり、腐敗していた。王党派が実力で政権奪取を計画していた。作者は『ベルサイユのバラ』と同じ。『ベルサイユのバラ』のオリジナルキャラクターも登場する。後日談的な要素がある。

ナポレオンを主人公とした作品となると英雄物語を連想する。しかし、本作品はバスティーユ監獄襲撃に参加した生き残りが狂言回しになっている。皇帝になったナポレオンを肯定一色では描かないだろう。皇帝就任はフランス革命の精神からすれば裏切りである。

また、本作品ではフーシェやタレイランというナポレオン没後も生き延びた陰謀家を存在感のあるキャラクターとして描いている。ナポレオンの足りなかった点も描きそうである。

第1巻のメインはナポレオンとジョセフィーヌの関係である。後の離婚を知る立場からすればジョセフィーヌに感情移入したくなるが、この時点では立場は逆であった。二人の関係がどのようになるか興味深い。

フランス革命を描いた人が、その後でナポレオンを描く。これは小説家の佐藤賢一も同じである。ナポレオンは皇帝になり、フランス革命の息の根を止めた。このため、フランス革命を肯定的に捉えるならば否定的に考えたくなる。同時代人ではベートーベンの評価が有名である。一方でナポレオンの対外戦争は革命精神の輸出の側面もある。フランス革命の延長線上に考えることもできる。

イタリア遠征ではナポレオンのアルプス越えは画期的な出来事とされるが、本作品では特に苦労なく終わる。コロンブスの卵のようなものなのだろうか。あまり戦術的なことは描かれない。ここは女性向け漫画らしい。アラン・ド・ソワソンだけは超人的に活躍する。これはオリキャラ補正だろうか。
ナポレオンはジョセフィーヌのことばかりである。兵士と同じ食事を摂っていても、これで士気が保てるだろうか。これに対してジョセフィーヌは浮気しており、華やかなパリを離れたがらない。ジョセフィーヌが離れたがらない理由には住み慣れたという点があろうが、パリが文化の先進地域という感覚もあるだろう。ルネサンス期まではイタリアが文化の先進地域であった。時代が変わっている。
ナポレオンは兵士の略奪を厳禁する。違反者は死罪とする。これは織田信長と共通する。占領地の急拡大の背景には住民の支持が不可欠である。我慢や負担を強いてばかりの日本の公務員感覚とは異なるところである。