羽海野チカ『3月のライオン 15』(ヤングアニマルコミックス、2019年)は桐山零が将棋の壁にぶつかる。林田先生は適切に問題を把握する。その上で「(ひなたと二人で作った)おにぎりだけは絶対に手放すな」と言う。本作品が将棋漫画である以上に、居場所探しの漫画であることを示している。

将棋漫画と言えば将棋一筋の愛すべき将棋馬鹿の物語というイメージがある。しかし、本作品の当初のイメージは異なっていた。その後は将棋馬鹿達が描かれてきたが、やはり一番のテーマは居場所探しであった。

将棋一筋の将棋馬鹿は選択と集中の体現である。選択と集中は昭和の日本的経営に対する米国流の経営手法として20世紀末から支持された。しかし、日本の伝統的なエキスパートは選択と集中を実践していた。戦後昭和の高度経済成長期の常識が異端と言えるかもしれない。

桐山の対戦相手の野火止あづさ六段は、まさに将棋一筋の将棋馬鹿である。しかし、その野火止よりも幼少期の悩みを抱え、今は恋愛を満喫する桐山や子育ての苦労を抱えていた田中七段の方が強い位置付けになっている。登場人物に「田中七段が将棋一本に突き進める人生だったら、どんな将棋指してたのかなあ」と言わせているが、それは「別の将棋」とあっさり返されている。将棋一筋で名人を目指すよりも自分の居場所を重視するもの県理になりそうである。