織田作之助「世相」は1945年(昭和20年)の年末の混乱した大阪の世情に自らの心情を重ねた小説。過去の様々なエピソードと現在の状況が輻輳的に語られる。大阪府南河内郡林田村林田国民学校の訓導(教諭)が生活苦から闇商売に手を出す。主人公は作家であるが、作品が風俗壊乱を理由に発禁処分になった。しかし、世の中は公務員が机上で考えるほど単純ではなく、むしろ統制経済が風俗を乱す。透明性のある市場が大切である。

南河内郡林田村は存在しない。南河内郡で似た地名に富田林町がある。林田村は兵庫県八部郡と揖保郡、香川県綾歌郡にある。兵庫県八部郡林田村は駒ヶ林と長田の一字を組み合わせたもので、「林田」の意味はない。1896年(明治29年)に神戸市に編入された。1931年(昭和6年)に区制が施行され、林田区になった。しかし、1945年(昭和20年)5月1日に長田区になった。揖保郡林田村には林田村立林田国民学校が存在した。

本作品には「鈴の音が聴えるのはアイスクリーム屋だろうか夜泣きうどんだろうか」との表現がある。苦労人は過去に「夜泣きうどんの屋台車も引いた」と語る。夜泣きうどんは上方ならではの表現である。関東は夜鳴き蕎麦である。江戸時代から蕎麦やうどんを販売していたが、戦後はチャルメラのラーメンのイメージが強くなる。

ホテルチェーンのドーミーインの夜泣き蕎麦もハーフサイズの醤油ラーメンである。これは夜食の時間帯に宿泊客にサービスするものである。縮れ麺にメンマ、ネギ、海苔が乗っている。醤油ラーメンですが、あっさりしていて塩気は強くない。大豆の旨味を引き出している。私はドーミーインプレミアム和歌山とドーミーイン津で食べたことがある。

人工甘味料のズルチンが有害との描写がある。日本では1964年になって全面禁止されたが、それ以前から有害性が知られていた。後追いは危険ドラッグや脱法ハーブとも重なる。