大河原遁『王様の仕立て屋 下町テーラー』は仕立て職人・織部悠の東京の活動を描く。悠は紳士服の本場イタリアのナポリで修行を積み、開業する凄腕職人。その悠が若き日に世話になった日本の下町・谷中の老舗テーラー店主が危篤になった。悠は急遽イタリアから帰国し、店番を始める。

第3巻は寿司屋の話から始まる。銀座で腕を磨き、故郷の房総の港町で開業したが、地域の魚市場では疎外され、良い魚を競り落とせない。仕立て屋が仕立てた衣装で魚市場関係者から一目置かれようとする。

高級スーツで一目置かれようとするという話ではない。価格と品質が比例するという愚かな価格信仰ではない。むしろ、その逆の印象を与えるために仕立て屋の手の込んだ働きがある。本作品は衣装で問題を解決する話であり、これで良いが、そもそも市場に見えない参入障壁がある閉鎖性が問題である。伝統的な市場がこのようなものならば消費者としてはAmazonマーケットプレイスのようなものの方が公正さを感じる。

この話では回らない寿司屋の蘊蓄が語られる。マグロは目玉であり、利幅を抑えた価格設定にしているため、マグロばかり食べる客は嫌われる。成程と思うが、それならば消費者が好きなものを気兼ねなく選択できる回転寿司の素晴らしさを逆に感じてしまう。