林田力 何者のだましの堤防も崩す

『東急不動産だまし売り裁判』著者

ノンフィクション著者。『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』マンションだまし売り被害を消費者契約法で解決。何者もだまし売りのない世界へ。だまし売りNoでSDGs。消費者の堤防/Amazon Kindle出版/林田医療裁判/中野相続裁判/二子玉川再開発問題/書評/マンガ/YouTube
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銀河英雄伝説

悲劇の背景に麻薬 #銀河英雄伝説

ヴァンフリート星域会戦から第6次イゼルローン攻防戦の自由惑星同盟側の主人公はヤン・ウェンリーよりもシェーンコップである。薔薇の騎士(ローゼンリッター)連隊がクローズアップされる(『銀河英雄伝説外伝 3 千億の星、千億の光』)。シェーンコップが連隊長、リンツが連隊長補佐になる。リンツは常識人的な指摘をする役回りになる。ヤン艦隊におけるムライ参謀長の立場である。

組織が暴走しないために必要な役回りである。警察不祥事など日本型組織の不祥事は構成員の同質性が背景にある。メンバーの同質性が高いと皆が同じ方向にダッシュしてしまう。あえて常識的な正論を言うことも同質化を避けるために必要である。

ヤンの活躍は第6次イゼルローン攻防戦からである。ラインハルトを窮地に追い込むという恐ろしい手腕を発揮するが、あっさり描かれるので凄みを感じない。天才の凄さは見え難いものである。居眠りを上官に見られて悪印象を与え、成果を出しているのにエリートコースに乗れなかった。ヤンらしさがある。

ハルテンベルク伯爵の妹のエリザベートの悲劇の背景にサイオキシン麻薬があった。依存性薬物は本人だけでなく、周囲を破滅させる。既存社会の隠蔽体質が悲劇を拡大した。薬物の売人は公式に処断された方が悲劇の拡大を絶てただろう。これは現実の薬物犯罪にも該当する。

グリンメルスハウゼン文書に対するラインハルトの姿勢が素晴らしい。ラインハルトは目的のためならば手段を選ばず、門閥貴族の弱いところを突くという卑怯な手口を好まない。ラインハルトは武勲にこだわりを持ち、スピード出世したが、日本の平目公務員的な立身出世主義とは異なる。むしろ、自己の成果で評価されることを求めるストイックさがある。

ヤンの同期で秀才の誉れ高いマルコム・ワイドボーンは、あっさり退場する。ワイドボーンは傲慢なキャラクターであった。原作はラインハルトとヤンの二人の天才を際立たせるために他のキャラクターをどうしようもなく無能に描いているのではないかと思うことがある。しかし、それではラインハルトやヤンは相対的にまともというだけで天才にはならない。実際、『千億の星、千億の光』のヤンの評価に他人がミスするところで、まともな成果を出しているというものがあった。

これに対して藤崎竜版のワイドボーンに過信はない。士官学校のシミュレーションでヤン・ウェンリーに敗北した際は何故、負けたのか自省している。さらにラインハルトの天才を見抜いている(田中芳樹原作、藤崎竜漫画『銀河英雄伝説 3』)。

ワイドボーンの有能さを出し、ラインハルトを舐めずに全力で対峙し、それでも敗北したと描いた。それによってラインハルトや、そのラインハルトを追い詰めるヤンの天才を際立たせた。原作で軽視されていたキャラクターを再構成する。二次小説を読むような面白さがある。

【銀河英雄伝説】公平な裁判と公平な税制

銀河帝国の最高権力者となったラインハルト・フォン・ローエングラムの内政の方針は公平な裁判と公平な税制というシンプルなものである。「体制に対する民衆の信頼をえるには、ふたつのものがあればよい。公平な裁判と、同じく公平な税制度。ただそれだけだ」

このラインハルトの発言には二つの意味がある。一つは公平な裁判と公平な税制度が必要ということである。それが実現すれば素晴らしいが、末端の役人にまで徹底できるか。次代を担う最高幹部クラスでもグリルパルツァーのような存在がいた。

もう一つは公平な裁判と公平な税制度だけがあればいいとなる。後者は余計な政策は不要という自由放任主義的な傾向がある。勿論、マンションだまし売りのような悪徳商法を放置することは公平ではなく、そのための規制は必要である。しかし、20世紀後半の福祉国家的な発想とは大きな隔たりがある。

公平な裁判と公平な税制で民衆の支持を得るためには、民衆側も意識が高くなければならない。公正な裁判と公平な税制の下での大不況と、不公平さがあるが好景気のどちらが良いかとなった場合、残念ながら現代日本人は後者を選択する人が多そうである。銀河帝国の民衆は現代日本人よりも賢いだろうか。

門閥貴族の没落は貴族だけの問題ではない。貴族御用達の商人も没落する。連鎖倒産や失業者が溢れる。旧社会主義国の失業者のように旧体制を懐かしむ民衆も出そうであるが、そのような描写は見られない。経済的な苦境よりも公平な裁判と公平な税制を歓迎するほど銀河帝国民衆の意識は高いか。

田中芳樹原作、藤崎竜漫画『銀河英雄伝説 15』(集英社、2019年)ではラインハルトは公平な裁判と公平な税制度だけと言いながら、福祉国家的な政策を積極的に行っている。門閥貴族の屋敷を福祉施設にしたり、低利子で貸し出す金融機関を設立したりするなどである。それによって民衆から統治の天才と支持されている。20世紀後半の福祉国家的思想が先祖帰りした感がある。

20世紀後半の福祉国家的な常識では公平な裁判と公平な税制度だけでは民衆の支持が得られないとなるだろう。一方で20世紀末の社会主義体制の崩壊やケインズ経済の機能不全を経験した身からすると、官僚主導経済の硬直性が問題であり、公平な裁判と公平な税制度に専念という思想は魅力的である。
SF
林田力
江東住まい研究所
2018-02-18

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ノンフィクション。東急リバブル東急不動産から日照・通風・眺望喪失という不利益事実を隠して新築マンションを騙し売りされた消費者が、消費者契約法(不利益事実の不告知)に基づき売買契約を取り消し、裁判で売買代金を取り戻す闘いの記録。 動画 https://t.co/6weS1SQuEF
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