庄司克宏『欧州ポピュリズム EU分断は避けられるか』(筑摩書房、2018年)は欧州連合(EU)でポピュリズムの台頭を招いた要因を分析する書籍である。皮肉なことに大衆民主主義の欠陥を埋めることを意図して作られたEUの仕組みが、民意を無視する欠陥としてポピュリスト政党から攻撃されている。

ポピュリズムという言葉にはマイナスイメージがあるが、本来は民意の尊重という民主主義の徹底を求めるものであり、そのこと自体は悪くない。元々、EUは気まぐれな大衆民主主義に振り回されずに政策を遂行するエリート主義的な思想で制度設計された面がある。それ故にポピュリズムの不満が高まることは、ある意味で必然であった。

ポピュリズムの問題は法の支配や適正手続きを無視して、多数派の意思を優先する傾向にある。ポピュリスト政党と言えば、移民排斥を主張する排外主義を先ず連想するが、司法権の独立などを否定するポピュリズムもある。極論すれば皆がある人を殺したいと思えば殺すことが正当化される。皆で決めて良いことと決めて良くないことを峻別することがポピュリズムと向き合うことになるだろう。

EUの構造的欠陥として、加盟時には審査されれるが、継続の審査がないことである。参入障壁は高いが、メンバーになれば、ぬるま湯という日本の業界規制に似ている。このため、ポピュリズム政党が政権を取り、人権や法の支配を無視した政治を行うなど加盟国がEUの基本的価値に違反した場合の対抗措置が不十分である。権利停止手続は加盟国の全会一致が必要で、除名の規定はない。

この問題は統一通貨のユーロでも現実化した。EUはユーロ参加の条件として、財政赤字の対GDP比3%以内などの財政規律順守を条件とした(因みに2018年の日本の財政赤字の対GDP比は3.8%であり、日本はユーロに参加する資格はない)。ギリシャは2001年にユーロに参加したが、財政赤字GDP比を過少申告して審査を通過していた。実際の1999年の財政赤字GDP比は3%を越えており、ギリシャには最初からユーロ参加資格がなかった。

後にギリシアの財政赤字粉飾が明らかになり、2010年にギリシャ危機が起き、ユーロが下落した。ギリシャ危機では緊縮財政批判がなされがちであるが、むしろ資格のない国が虚偽報告でユーロに参加したことが根本的な原因である。東芝不正会計問題と同じである。

財政赤字が大きい国が参加するとユーロの信用が落ちることは最初から分かっていたことである。それ故にEUは財政規律を定め、それが守られた国だけ参加を認めるようにした。ところが、過少申告によって財政規律違反の国がユーロに参加していた。それが判明して、通貨危機が起きた。制度が想定した通りの現象が起きただけである。ユーロや財政規律の欠陥ではない。

EUがポピュリズムの問題と対抗し、存在意義を保てるかは、財政規律の厳格な順守のような問題を徹底できるかにあるだろう。ギリシャの財政赤字隠蔽はギリシャ側の甘えが主要因であるが、EU側にも加盟国皆がユーロに参加させるという目の前の政策目的実現のために審査を甘くする意識が働いたとの指摘がある。そのような御都合主義では反EUの声の高まりも道理である。